研修担当者のブログ

2022.12.20

リーダーシップとマネジメント

新人職員教育と発達支援の必要性

介護現場の新人育成や職員教育の話をしていると、「真面目なんだけどなかなか利用者の名前が覚えられない」「仕事の順番が頭に入らない、業務上で急な変更があった時に対応できない」などの話が聞かれます。
少し前までなら、このような方は「介護に向いていない」という話になったり「指導する人の教え方が悪い」などと言われることが多かったように思います。
しかし、少しずつですが様々な発達障害が社会的に認知されるようになり、介護現場では人材不足から資格の有無や年齢を問わず様々な新人職員を丁寧に育てる必要が生じてきて「新人さんの成長を少し長い目で見ましょう」にかわり、今では「受け入れ側が教え方や関わり方を変える必要があるのではないか」という所まで来ているように思います。

特に、発達障害の概念を「グラデーション」や「スペクトラム」という考え方で説明できるようになってからは、受け入れ側が工夫したり、努力することの大切さについて前向きに話が出来るようになりました。

今年度いくつかの法人で取り組んでいる人材育成プログラムにおいても発達障害の理解を深める取り組みを行っています。 発達障害を理解するには「医療的な側面から理解する」という方法と「当事者の気持ちを理解する」という方法があると思います。最近読んだ『死にたかった発達障害児の僕が自己変革できた理由』は、当事者の気持ちを理解できるとても良い本だったのでご紹介しようと思います。
これは三条市で生まれた西川幹之佑さんという発達障害当事者の方が書いた話です。家族が四代続けて東大卒というエリート家系で産まれ育った西川さんですが、発達障害の様々な症状によって大変つらい少年時代を過ごします。中学進学時に区立麹町中学校に入学し、工藤勇一校長他多くの先生の理解と支援を受けて数々の壁を乗り越え、成長していくさまが描かれています。
この本の内容ですが、西川さんがどんな学校生活を送ってきたのか、工藤校長がどのように西川さんに関わってきたかということや、発達障害のある人のためのライフハックなどが書かれています。

「最上位目標を正しく設定する」や「(ひと工夫された)マインドマップを書く」こと、「砂糖摂取をへらす」ことなど、実践的ですぐにでも活用できそうな事例が沢山書いてありますが、私が特に印象に残った部分は、工藤校長が「西川君の成長を感じた瞬間」のエピソードです。

 

 

中学入学当初の西川さんは、悩みや不安が大変大きく、しょっちゅう校長室に入って工藤校長に対して話しかけて話が止まらない、しかも延々ネガティブな話が続く、という事が続いていたそうです。
工藤校長はなんとか西川さんを前向きにしようと頑張りますが、どうしても前向きになってもらえない。困り果てたときふと口から出たのが「君の話を聞いていると僕まで苦しくなってくるよ」の一言だったそうです。この言葉に西川さんは「はっ」と我に返り、相手に苦しい思いをさせていたことに気づき、ネガティブな話を切り替えて相手にも気を使いながら前向きで明るい話をするように意識し、実際に変化していきます。
読んでいて本当に興味深く、面白いエピソードだと思いました。そして、工藤校長ほどの方でも、西川さんの話をどう受け止めたらよいか、わからないなかで悩みを聞き試行錯誤していたというところに共感を覚えました。工藤校長は苦しいながらも西川さんの不安や苦しみをずっと理解しようとしていたと思います。

介護現場で職員教育をする立場である職員の皆さんも、本当に悩みながら実践を重ねています。今後も、指導する側の立場と指導を受ける立場、両方の気持ちを汲みながら、専門性と社会性の両面から介護職員の成長をサポートしていきたいと思います。